弁護士 杉浦恵一
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遺言の種類として、自筆の遺言や公正証書の遺言など複数ありますが、遺言があるからといって必ずしも見つかるとは限りません。
法務局が預かっていたり、公正証書遺言であれば、通常は検索することで見つかりますが、自宅に置かれていたり、第三者に預けられていたりすると、遺言書が見つからないこともあり得ます。
そのような場合には、相続人は遺言書が存在しない前提で遺産分割をすることになるでしょう。
それでは、相続人が遺産分割をしてから、長期間が経って遺言書が見つかった場合には、どのようになるのでしょうか。
この問題を扱った事件として、最近の令和6年3月19日、最高裁判所で判決が出されました(令和4年(受)第2332号)。
①事件の概要
こちらの事件の概要ですが、被相続人が平成13年に、甥や養子を含めて遺産を等しく分与する内容の自筆証書遺言を作成したところ、平成16年に被相続人が亡くなり、その後に唯一の法定相続人であった養子が、その自筆証書遺言の存在を知らない状態で、不動産を相続したと思って不動産の占有を開始し、相続を原因として所有権移転登記をした、という事案でした。
その後、いつかは不明ですが自筆証書遺言が検認されたと思われ、平成31年に裁判所から遺言執行者が選任されたところで、唯一の相続人であった養子が、取得時効を援用したという流れです。
②事件の争点
ここでの争点は、民法884条に定められている相続回復請求権の消滅時効が完成していない時点で、その時効完成前に取得時効によって不動産の持分権を取得することができるか、という内容でした。。
民本884条の相続回復請求権ですが、以下のような条文が定められています。
「相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。」
他方、取得時効は民法162条で、以下のように定められています(今回は適用されている2項を以下に引用します)
「2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」
期間だけ比較すると、相続回復請求権は、相続権を侵害された事実を知った時から5年間、又は相続開始の時から20年間で消滅します。
そうしますと、今回の事案では、相続権を侵害された事実をしった時点がいつか不明確ですが、相続の発生(=被相続人が亡くなった時点)が平成16年ですので、遺言執行者が選任された平成31年の時点では、まだ20年間は経っていなかったことになります。
他方、取得時効は、所有の意思の存在、平穏かつ公然と占有していること、占有の開始時に善意、無過失の場合に、10年間の占有で所有権等の権利を取得できるという制度です。
そのため、平成16年に被相続人が亡くなった時点から占有をしていれば、平成26年が経過した段階では少なくとも10年が経っていることになり、取得時効が成立しそうです。
③最高裁の判断
このように抵触する期間がある場合に、どちらが優先されるかというのを、今回の最高裁判所判決では判断されました。
最高裁判所の判決では、結論として、真正な相続人(包括受遺者)の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、その相続人が相続した財産の所有権を取得時効により取得できると判断しました。
理由としては、民法884条の相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることであるため、取得時効の要件を満たしたのに、相続回復請求権の消滅時効が完成していないという理由で取得時効が妨げられると、その趣旨(早期かつ終局的な法律関係の確定)に整合しない、という理由です。
このように、はっきりしなかった問題に関して、最高裁判所の判断が出されたことで解決が図られましたが、遺言があれば、可能な限り早期に見つけ、手続きを行った方がいいでしょう。
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