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養子縁組をしたものの、事情があって養親子関係を解消したい場合、養親と養子のどちらも生きているときは、協議もしくは裁判手続きにより離縁することになります。
一方、養親と養子のどちらか一方が死亡した場合にも、縁組は当然には解消されず、生存当事者が離縁を希望する場合は、裁判所の許可を得て離縁することになります。
これを死後離縁といいます。
民法811条6項
縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。
死後離縁は、親子関係を終了させるものですので、扶養義務や相続に影響を与えます。
今回ご紹介する裁判例は、養子が死亡した後、養親が養子との離縁を求めた事案です。
離縁は、既に発生している相続関係には影響を与えません。
例えば、死亡した養子に子供がいなかった場合、離縁をしても、養親は、養子の相続人となります。
一方、離縁をすると離縁後に生じた相続には影響を与えます。
養子→養親の順に死亡した場合、養子の子どもは、養親の代襲相続人となります。
しかし、養子死亡→離縁→元養親死亡となった場合、養子の子どもが養親を代襲相続することはありません。
そのため、養子の子にとっては、離縁が認められるか否かは大きな利害関係を有することになります。
大阪高等裁判所決定令和3年3月30日
事案の概要
平成11年
抗告人と養親E夫婦は、4人の娘がおり、J家及び同族会社であるH会社を継がせるため、長女Fの夫Iと養子縁組した。FとI夫婦は、J姓を名乗り、A及びBと同居した。
平成14年
FとIには子供がいなかったことから、後継とする目的で、抗告人夫婦の二女Gの三男である利害関係人(縁組当時未成年)と養子縁組した。利害関係人は実親のもとで育っている。
平成15年
IがH社の代表取締役となった。
平成29年
利害関係人がH社に入社
平成30年
Iが死亡
利害関係人がH社の代表取締役に就任した。
Eが死亡
利害関係人は、Iの相続で7400万円、Eの相続でIを代襲して1億2700万円を相続している。
その後、利害関係人は抗告人及びFと対立し、H社の代表取締役も辞任しEとIの法要にも欠席した。
令和2年
抗告人は、抗告人とIとの養子縁組について死後離縁を申立てた。
養子縁組は、養親と養子の個人的関係を中核とするものあることなどからすれば、家庭裁判所は、
死後離縁の申立てが生存養親又は養子の真意に基づくものである限り、原則としてこれを許可すべきであるが、
離縁により養子の未成年の子が養親から扶養を受けられず生活に困窮することとなるなど、当該申立てについて社会通念上容認し得ない事情がある場合には、
これを許可すべきではないと解される。
これを本件についてみると、一件記録によれば、本件申立ては、抗告人の真意に基づくものであると認められることから、社会通念上容認し得ない事情があるかにつき検討する。
上記認定事実によれば、抗告人と亡E夫婦は、亡Eが引き継いできたJ家の財産やHの経営を承継させることを目的として、亡Iと養子縁組したものであるところ、
亡Iは、抗告人と亡Eよりも先に死亡して、その目的を遂げることができなくなったことが認められる。
そして、利害関係参加人は、亡Iの死亡により、抗告人の代襲相続人の地位を取得したものではあるが、既に、大学を卒業して就労実績もある上、亡I及び亡Eから相当多額の遺産を相続しているものであって、
上記代襲相続人の地位を喪失することとなったとしても、
生活に困窮するなどの事情はおよそ認められない。その上、抗告人と利害関係参加人との関係は著しく悪化しており、利害関係参加人は、Hの代表取締役及び取締役を辞任したことも認められる。
上記の諸事情に照らせば、本件申立てを許可することにより、利害関係参加人が抗告人の代襲相続人の地位を失うこととなることを踏まえても、本件申立てについて、社会通念上容認し得ない事情があるということはできない。
この点、利害関係参加人は、本件申立ては、抗告人の推定相続人から利害関係参加人を廃除することを目的としてされた恣意的なものであると主張するが、
抗告人と利害関係参加人との関係は著しく悪化しており、一件記録によれば、抗告人には、利害関係参加人を自らの相続人から廃除したいという思いがあることはうかがわれるものの、
そのような意図があるからといって、上記の諸事情に鑑みれば、本件申立てについて社会通念上容認し得ない事情があるとはいえないとの上記判断を左右するものとは認められない。
以上によれば、本件申立ては、これを許可すべきである。
以上の次第で、上記判断と異なる原審判は相当ではないから、これを取り消した上、本件死後離縁の申立てを許可することとする。
本決定以前の福岡高等裁判所平成11年9月3日決定では、民法811条6項について「道義に反するような生存当事者の恣意的離縁を防止するために,死後離縁を家庭裁判所の許可にかからしめたものと解するのが相当」として、死後離縁が恣意的なものかどうかが判断基準とされていたものと思われます。
本件原審(神戸家庭裁判所姫路支部令和2年11月16日)も、福岡高裁と同様の基準を用いて、「推定相続人廃除の手続を潜脱する目的でなされた恣意的なものであると認めざるをえないから、これを許可するのは不相当である。」として、離縁を不許可としました。
これに対し、本決定は、死後離縁を「原則としてこれを許可すべき」として、例外として「社会通念上容認し得ない事情」がある場合には、死後離縁を許可すべきではないとの枠組みを示しました。
そして、「社会通念上容認し得ない事情」の具体例として、離縁により養子の未成年の子が養親から扶養を受けられず生活に困窮することとなるなどをあげ、本件具体的当てはめのなかで、
離縁を求める理由の中に利害関係人を廃除することが含まれていたとしても、社会通念上容認し得ない事情があるとはいえないとしました。
本決定は、養子縁組の本質である養親子関係の個人的関係を重視し、要親からの死後離縁の要件を従前より緩めた裁判例だと解されます。
離縁、死後離縁には、一定の判断の枠組みがありますので、悩まれている方は、弁護士に相談されるのがいいと思います。
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