Q.父は自宅のほかに、駐車場にしている貸地を1筆所有していました。
父は約10年前、長兄に対しその結婚準備のために駐車場の土地を贈与して、その所有権移転登記手続きをしました。
父の妻である母は、10年前に亡くなり、父は自宅で単身で生活しておりましたが、近くに住む叔母に世話になっていました。
父はかねてより叔母に自宅を贈与する旨話しておりましたが、亡くなる3ヶ月前、叔母に対し自宅の土地建物を死亡したときに贈与する証書を作り、
死因贈与を原因とする始期付所有権移転仮登記手続きをし、
またその頃、遺言書を作って次兄に対し預貯金の全部を相続させました。
父が死亡したときには、預貯金のほかに見るべき財産はありませんでした。
三男である私は、父の生前、特に何ももらっていません。私は誰に対してどのような請求をすることができますか?
相続人は、私と長兄、次兄の3人です。
次兄→叔母→長兄の順にこれらの者を対象として、遺産の1/6の額について遺留分減殺請求権を行使することが考えられます。
相談者は、父の財産の処分などにより、父から相続する財産がありませんでした。このような場合でも、相続財産の一定の割合について、兄弟姉妹を除く相続人に最低限度の取り分を確保するために設けられたのが遺留分の制度です。
本件でも、相談者は、½×⅓=1/6の遺留分があり、これを請求する権利である遺留分減殺請求権を行使することが考えられます。
そして、遺留分減殺請求の対象となる財産には遺贈、死因贈与、生前贈与があります。
そして、減殺をする順番としては、遺贈→死因贈与→生前贈与の順となります(死因贈与は、遺贈に次いで遺留分減殺の対象となるとした裁判例:東京高裁平成12年3月8日判決)。
遺贈を減殺しても侵害された遺留分が回復できないときは、死因贈与を減殺の対象として、それでもなお侵害された遺留分が回復できない場合は、生前贈与を減殺の対象とすることになります。
本問では、父から長兄への贈与は生前贈与です。民法903条1項の定める相続人に対する特別受益は、この生前贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであっても、遺留分減殺の対象となるので(最高裁判所平成10年3月24日判決※1)、遺留分減殺請求の対象となります。
次に父から叔母への贈与は死因贈与です。
そして、父から次兄へは「相続させる」旨の遺言書がありましたが、これは、原則として、遺産分割方法の指定であるとして、遺贈と同順位で減殺の対象になると考えられます。
以上からすると、次兄への贈与→叔母への贈与→長兄への贈与の順にその額に満つるまで遺留分減殺請求の対象となると考えられます。
遺留分減殺請求権は、相手方に対する意思表示をもってすることができますので、各人にそれぞれ請求をしましょう。
死因贈与には遺贈の規定を準用するとする民法の規定(554条)により、死因贈与と遺贈を同じ扱いとして、その目的の価額の割合に応じて減殺するとする有力な見解もあるためです。また、後日の紛争を防ぐ観点、および証拠として残す観点から、配達証明付内容証明郵便によることが望ましいです。相手方が応じなければ、裁判所にて裁判をすることになるでしょう。
もっとも、贈与された不動産が他の人にわたっている場合や、長兄が、贈与が特別受益であることを否認することも考えられます。
いずれにしても、早期に信頼できる弁護士に相談して対応することが望ましいでしょう。
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